ように思われてならぬ、と思い詰めれば其様な気がするが、よく考えれば、その吉村という切っても切れぬらしい情夫がある。……自分でも「いけない!」というし、情夫のある者は何うすることも出来ない。と言って、あゝして、あのまゝ置くのも惜しくって心元ない。銭《かね》がうんと有れば十日でも二十日でも居続けていたい。
「あゝ銭が欲しいなあ!」と、私は盗坊《どろぼう》というものは、斯ういう時分にするのかも知れぬ、と其様なことまで下らなく思いあぐんで、日を暮らしていた。
そんなにして自家に独りでいても何事《なん》にも手に付かないし、そうかと言って出歩いても心は少しも落着かない。それで、またしても自動電話に入ってお宮の処に電話を掛けて見る。
「宮ちゃん、お前あんなことを言っていたから、私は本当かと思っていたのに、主婦さんに聞くと、何処にも行かないというじゃないか。君は※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]ばっかり言っているよ。君がいてくれれば僕には好いんだが、あの時は喪然《がっかり》して了ったよ。」と恨むように言うと、
「えゝ、そう思うには思ったんですけれど、種々《いろいろ》都合があってねえ。
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