も少し私を棄てないで置いてくれないか。……何日《いつ》かも話した通り、此の土地で初めてお蓮《れん》を呼んで、あまり好くもなかったから、二十日ばかりも足踏みしなかったが、また、ひょッと来て見たくなって、お蓮でも可いから呼べと思って、呼ぶと、蓮ちゃんがいなくって、宮ちゃんが来た。それから後は君の知っている通りだ。宮ちゃんのような女《ひと》は、また容易に目付からないもの。」
そう言って、私は、仰けになっていた身体を跳ね起きて、女の方に向いて、蒲団の上に胡坐《あぐら》をかいた。
お宮は、沈んだ頭振を掉って、
「いけない! 何うしても隠れなくッちゃならない!」堅く自分に決心したように底力のある声で言って、後は「ですからあなたにはお気の毒なの……。私の代りにまたお蓮さんを呼んであげて下さい。」と言葉尻を優しく愛想を言った。そうしてまた独りで思案に暮れているらしい。
私は、喪然《がっかり》して了った。
「何うでも隠れなくってはならない! ……君には、其様《そん》な逃げ隠れをせねばならぬような人があったのか。……それには何れ一と通りならぬ理由《わけ》のあることだろうが、何うしてまあ其様なことになったの? ……そんなこととは知らず、僕は真実《ほんとう》に君を想っていた。――尤も君を想っている人は、まだ他にも沢山あるのだろうが――けれども、そういう男があると知れては、幾許思ったって仕方がない。……ねえ! 宮ちゃん! ……じゃ、せめてお前と、その人との身の上でも話して聞かしてくれないか。……もう大分遅いようだが、今晩寝ないでも聞くよ。私には扱帯《しごき》なんかよりもその方が好いよ。……私もそういうことのまんざら分らないこともない。同情するよ。……それを聞かして貰おうじゃないか。……えッ? 宮ちゃん! ……お前の国は本当何処なの?」私は、わざと陽気になって言った。
何処かで、ボーン/\と、高く二時が鳴った。
すると、お宮は沈み込んでいた顔を、ついと興奮したように上げて、私の問いに応じて口数少くその来歴を語った。
一体お宮は、一口に言って見れば、単《ひと》えに※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]を商売にしているからばかりではない、その言っていることでも、その所作にも、何処までが真個《ほんとう》で何処までが※[#「言+墟のつくり」、第4水準2−88−74]なのか※[#
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