》をしているか、さぞ病み細っているであろう。どうかして一度顔を見たいものである。そして出来ることなら母親に内証で、こちらの胸をそっと向うに通ずる術《すべ》もないものかと、いろいろに心を砕いたが、好い方法も考えつかぬ。毎日そこの路次口にいって立っていたなら、風呂に行く時にでも会われはせぬかと思ってみたが、一月から二月にかけて寒い最中のこととて、あまり無分別なことをして病気にでもなったら、この上になおつまらぬ目に会わねばならぬと思うと、そんなことも出来ぬ。そして時々路次に入っていって入口のところに立って家の中の様子に耳を澄ましてみるが、人がいるのか、いないのか、ことりという音もせねば話し声も洩《も》れぬ。そっと音のせぬように潜戸《くぐり》を引っ張ってみても、相変らず閉めきっていて動かない。入口の左手が一間の※[#「木+靈」、第3水準1−86−29]子窓《れんじまど》になっていて、自由に手の入るだけの荒い出格子《でごうし》の奥に硝子戸《ガラスど》が立っていて、下の方だけ擦《す》り硝子《ガラス》をはめてある。そこから、手を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]
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