、くどくどと一つことを繰り返していっている。私は、もう母親を対手《あいて》に物をいいかけると、こちらまでが自分でも愛想の尽きるほど下劣な人間になり果てるような気がしてくるので、もう、どんな気に障《さわ》るようなことをいい出されても、じいっと腹に溜《た》めておろうとしても、「旦那はんが来ていたら……」などといわれたので、また、頭がかっとなるほど癪に障ったので、
「旦那が何です。私のほかにそんな者があろうはずがない。そんな男がもし来てでもいたら黙って引っ込んでいる私じゃない。そんな者があるなら、今晩それが来合わしていればよかったと思っているんだ。いつでも対手をしてやる」
私は堪《こら》えかねて、母親の方に向き直って言うと、生酔《なまえ》いに酔っぱらった越前屋の婆さんは、眼と眼との間に顔中の皺を寄せて、さもさも気色《きしょく》の悪そう、
「ああもう、うるさい。喧嘩《けんか》をするなら、私の家の中でせんと、どうぞ戸外《そと》に出てしてもらいまひょう。今伜があれほどいうて往《い》きよったのに、伜の顔を潰《つぶ》さんようにしてとくれやす」
そんな調子で私と母親とで睨《にら》み合っているところへ
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