どと、同じやうに花崗岩質の山と思はれて、船の上からも白い砂の盛れ上つてゐる溪流の水路が明かに見えてゐる。比良岳はその高標の割に何となく雄偉の感じに富んだ山である。一つは山の處々に薙の多いのが、何となく慘憺として悲壯な感じを起さしめるのかも知れぬ。肉が少く骨の太いやうな山である。それでも山下の村々はこの靜かな山の裾に平和に棲息してゐると思はれて眼の醒めるやうな山麓の青草と緑樹に埋れて汀を綴つて人家が斷續してゐる。雄松崎は近江舞子の名、遊覽者の眼を欺かず、洗つたやうな清い汀に靜かな小波が寄せてゐる。まだ樹齡のさまで古くなささうな、すんなりとした松林が白砂の上に遠くつゞいてゐる。
 其處から西北にあたる比良の北岳の中腹の岩に深く刻まれた皺があつて、飛瀑が懸つてゐるのが白く見えてゐる。楊梅の瀑といはれてゐる。船の上からそこまで直徑にしても一里以上はあるだらうが、それでも可なり大きく見えてゐるところを思ふと、なか/\高い瀧らしい。
 船は長い間比良岳を仰望しながら走航をつゞけてゐた。更に右舷の方に眸を轉ずると、此の時、湖東の奧の島の三つに整つた山の影はもう稍東南の方に退いて、その前に横はつてゐる
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