もう何年という長い年月の間私の方からさんざん尽して心配していることが、いつまで経《た》っても少しも埒《らち》があかぬので、一体どうなっているかと、随分|厳《きび》しいことを、手紙でいってよこしたことはたびたびあります。しかし、それは私としては当然のことで、もちろん、あんな商売をしている女に山ほど銭を入れ揚げたって、それは入れ揚げる方が愚ではあるが、たとい幾ら泥水稼業《どろみずかぎょう》の女にしても、ただむやみに男を騙《だま》して金を捲《ま》き上げさえすればいいというわけのものでもありますまい。私がこの藤村の娘に対してしたことを最初からずっとお話をするとこうなのです。まあ聴いて下さい」
と、いって、対手が妙に生齧《なまかじ》りの法律口調で話しかけるのを、こちらは、わざと捌《さば》けた伝法《でんぽう》な口の利《き》きようになって、四、五年前からの女との経緯《いきさつ》を、その男には、口を挿《さ》し入れる隙もないくらいに、二時間ばかり、まるで小説の筋でも話して聴かすように、ところどころ惚気《のろけ》まで交えて、立てつづけに話してきかせた。私の顔は熱して、頬《ほお》には紅《くれない》が潮《さ》
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