してきた。
するとその男は、だんだん私の話に釣《つ》り込まれてしまい、初めの変に四角張っていた様子はいつか次第に打ち融けて、私の話が惚気ばなしのようになって来ると、たまらず、噴《ふ》き出しながら、
「君は女に甘い。君は下手《へた》だ。そんな君、女にただ遠方から金を送るということがあるものか。そういう時には君が自分で金を持って京都に来て、さあ、金はここに用意してある。廃めて自分の方に来るかどうするかと向うの腹を確かめて、こっちのいうことを聴くなら、金を出してやろうという調子で行かにゃ駄目《だめ》じゃ」と意見するようにいって、笑っている。
私はまた、半ばはわざとそうして見せるところもあったが、男が笑っているのを見て、むっとなり、あくまでも真剣な調子で、
「いや、笑いごとじゃありません。また惚気を言うつもりでもありません。他人から見れば馬鹿と見えるくらい、およそそれほどまでに、私は、相手を信じきって尽して来たことをお話するのです。惚気を聴かすようですが、それも私たちの間がそれほどまでに打ち融けておったことを説明しているのです。それにもかかわらず、……」と、なお後を継ごうとすると、その男は
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