りによそよそしい様子に、そうなくてさえ失望のあまり、ひどく弱くなっている心を押し潰《つぶ》されたような心地がしたが、努めて気を励ましながら、
「お母はん、お園さんが飛んでもない病気になったというじゃありませんか」と、まるで泣きかかるような調子で言葉をかけた。
すると母親ももう鼻声になって、
「私、あの娘《こ》にあんな病気しられて、もう、どないしょうかと思うてます。同じ病気かで、糞尿《ばばしい》の世話をするくらいどしたら、わたし何ぼか嬉しいか知れしまへん。あの娘の病気の世話やったら、どないに私骨が折れたかて、ちょっとも厭《いと》やしまへん。私もあの娘と一緒に死んだかて本望どすけど、あんたはん、何の因果であんな病気になりましたか思うて私、もうここ半月ほどの間というもの、夜もろくに寝られやしまへんのどす。ちょっと油断してる間にどんなことをするか知れまへんよって」母親は悲しい声で立てつづけに泣きごとをいう。そういう顔をよく見ると、なるほど娘の病気に心痛すると思われて、顔に血の気は失せて真青である。
私は一々うなずきながら、一昨日《おととい》の夜から、病気ということをはじめて聞いて、居処が知
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