んしなあ」と、私を慰め顔に言う。
「いえいえ、なにこの手紙を見たいと思ってるわけじゃありません。……ただお園が、叔父さんに連れられていったきりで、今どこにいるのか、私も、あなたも御存じのとおり、もう長い間心配していた、あの女のことですから、ぜひ一遍会って、病気の様子を見たいと思って……」と、私は、どこへ取りつく島もないような気がして、そういうと、お繁婆さんも、さすがに同情のある調子でうなずきながら、
「ええええ、あんたはんのことは、皆な、もうよう知ってます。どこにいやはるか、ここにおらんようになってからでも、もう半月くらいになりますよってなあ」
私はなおも繰り返して、そのうちにも自然居処が知れるようなことがあったら、是非知らしてほしいとくれぐれも嘆願するように頼んでおいて、ようようそこを出て戻った。
六
外に出ると、もう十二時を過ぎているので、お茶屋へ往き交う者のほかは人脚も疎《まば》らになって、冷たい夜の風の中に、表の通りの方を歩く下駄《げた》の足音ばかりが、凍《い》てついた地のうえに高くひびいているばかりであった。
そして、気が狂って叔父に連れられて、どこへ往っ
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