どこでしょう。あんた知っていませんか」
「さあ、それも、わたしどこや、よう知りまへんけど」と、小頸《こくび》を傾けるようにして、「何でも三条とか、油の小路とか聴いたように思うけど、委しいことは、よう知りまへん」と、真実知っていなそうである。
私はなお、もっと委しいことを、ああもこうもと訊ねたいと思ったが、家の内が急がしそうにしているのと、向うがはたして誠意をもって話してくれているのか、どうか半信半疑なので、いい加減にして出て戻ろうとして、まだ立ちにくそうにしながら、
「いろいろありがとうございました。あなたにお眼にかかって、様子が一と通り分りました」
私は、この上にもなお向うの誠意を哀求するような心持で丁寧にお礼をいった。幾度思ってみても、全く自分の生命《いのち》にも換えがたい女である。その女のゆえならば、いかなる屈辱をあえてしても決して厭わないと思っていたのである。
お繁婆さんは、
「ああそれからあんたはんのお手紙が来ているのも知ってます。たしか二度来てたかと思ってます。前のはお園さんが自分で受け取ってたしか見ていました。後のはここにおらんようになってから来ましたよって、私が預
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