役人に怒鳴りつけるようなことをいうもんやから、わたし、傍に付き添うていてはらはらしてました」
 私は思わず寂しい笑いを洩《も》らしながら、
「なるほどそういうわけじゃしようがありませんな。そして、今どこにいるでしょう」
「さあ、その時叔父さんに伴《つ》れられて帰ったきり、どこにいるのかそれなりでちょっとも音信《たより》がないそうにおす。わたしもそれから用事で大阪の方に往《い》てきまして、今日帰ったばかりのとこどすよって。今日も、あんたはんから訊かれる前に、お園さん、ちょっとも音信がないなあ、どないしてはるやろ言うて噂《うわさ》してましたところどす」
 なるほど叔父のあることは前から知っていたけれど、私はなおもその叔父さんというのははたして真実《ほんとう》の叔父さんに違いあるまいかと疑ったので、念を押すように、
「叔父さんといって、その実旦那じゃありませんか。こんな土地じゃ、こう申しちゃ、何ですが、裏にうらがあるのが習わしですからな」と、捌《さば》けた調子で、対手の口うらを引いてみたが、お繁は言下に、
「あの人旦那なんてありゃしまへん。そりゃ本当の叔父さんどす」
「その叔父のいるところは
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