の顔が、一層恐い顔になった。家にいる他の妓《こ》たちはまたそれを面白がって、対手になって戯弄《からか》うと、彼女は生真面目《きまじめ》な顔をしてそれに受け応《こた》えをしているという有様である。
お繁さんはおかしそうに笑いながら、
「そんな具合でもう気の毒で見ていられまへんがな。ほて、もう、わたし、あんた方、そんなつまらんこと言うてお園さん戯弄《なぶ》らんとおいとくれやすいうて、小言いうてました」
私は、それを聴いて身にしみて悲惨を感じながら、じっと涙を飲み込むようにして、
「飛んだことになってしまったものですなあ」と、あとの言葉も出でずに黙って太息《ためいき》を吐《つ》いていた。
「もう、どだい、いうことがなってへんのどすもの」お繁婆さんは変なハイカラの言葉に力を入れていう。
そんな有様で、とてもこの先続けて商売など出来そうにないところから、母親のほかに西京《にし》の方にいるという母方の叔父《おじ》にも来てもらって、話を着け、お繁さんが附き添うて管轄の警察署へ行って、営業の鑑札を返納して来たというのである。お繁婆さんはなおおかしそうに、
「警察へいても、お園さん真面目な顔をして
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