……」と、ひとり言のようにいって、もう、私の眼には涙がにじんで来た。
「そして、ひどい病気とはどんな病気でした?」静かに訊いた。私は、彼女の体質や容姿から想像すると、多分肺でも悪くなったのではあるまいかと思った。そして、もしそうであったならば、一層|可憐《かれん》でたまらないような気がしてくるのであった。
 するとお繁さんは黙って意味ありげに笑いながら、私の顔を見るだけで、その病気が何であるか言おうとしない。それで、これは真実《ほんとう》は病気ではない。病気というのは偽りで、やっぱり旦那《だんな》にでも引かされて、今ごろはどこかそこらに好い気持で納まっているのだなと感疑《かんぐ》りながら、こちらも、つとめて心を取り乱さぬようにわざと平気に笑いにまぎらわして、
「※[#「言+虚」、第4水準2−88−74、読みは「うそ」、432−下−17]でしょう、病気というのは」重ねて訊くと、
「いえ、病気はほんまどす」といって、まだ笑って真相を語ろうとせぬ。
「どんな病気です?」私は、今度は、商売柄恥かしいひどい病気でもあるのかとも思った。
 すると、お繁婆さんはやっぱり笑いながら、
「お園さん、気狂
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