に燃えているのなどが目についた。それから仁和寺《にんなじ》の前を通って、古い若狭《わかさ》街道に沿うてさきざきに断続する村里を通り過ぎて次第に深い渓《たに》に入ってゆくと、景色はいろいろに変って、高雄の紅葉は少し盛りを過ぎていたが、見物の群衆は、京から三里も離れた山の中でも雑沓《ざっとう》していた。私は、高い石磴《いしだん》を登って清洒《せいしゃ》な神護寺の境内に上って行き、そこの掛け茶屋に入って食事をしたりしてしばらく休息をしていたが、碧《あお》く晴れた空には寒く澄んだ風が吹きわたって、茶褐色《ちゃかっしょく》のうら枯れた大木の落葉がちょうど小鳥の翔《かけ》るように高い峰と峰との峡《はざま》を舞い上がってゆく。愛宕《あたご》の山蔭に短い秋の日は次第にかげって、そこらの茶見世から茶見世の前を、破れ三味線を弾《ひ》きながら、哀れな声を絞って流行唄《はやりうた》を歌い、物を乞《こ》うて歩く盲《めし》いた婦《おんな》の音調が悪く腸《はらわた》を断たしめる。侘《わび》しい心にはどこに行っても明るく楽しいところがなかった。
五
田舎へ往ってからも二、三度手紙を出して、今、悪い風邪
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