の品物まで入れ足そうとする。どこかへ持って往《い》ってすぐ金を融通しようというのであろう。
私はすこしも金など欲しいとは思わないので、飛んだことになったと、はらはらしながら、眉《まゆ》に皺《しわ》を寄せて宥《なだ》めるように、
「これ、何をするの。そんなことはしないがいい。そうしてせっかく出来ている物をそんなことをしないでもいいじゃないか。私はお前から金を戻してもらいたくないのだ」
と、手を差し出して女の手を捉《と》らんばかりにしていうと、彼女はそれには答えず、「おかあはん、これすぐ持っていとくれやす」と、荒々しく風呂敷を包んでいる。
私は、母親はどんな心持でいるのかと、そっちを振り顧《かえ》ってみると、母親は次の間の火鉢の傍で人の好さそうな顔をして、微笑しながら娘のすることを黙って遠くから見ているばかりである。そして、女が幾度も急《せ》き立てるように、
「持っていとくれやす。さあ今すぐ持っていとくれやす」というのを、母親は「ええええ」とばかりいって、起とうとはしない。
私は母親の火鉢の前に立っていって、
「おかあはん、どうぞ持っていかないようにして下さい」
というと、母親はうな
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