ん》を……お敷きなさいまし。……雪岡さんというお名は宮ちゃんからたびたびきいています。また先日は宮ちゃんに何より結構なお品をありがとうございました。……宮ちゃん今家にいますよ。この間から少し身体《からだ》が悪いといって休んでいます。宮ちゃん二階《うえ》にいるだろう。雪岡さんがいらしったからおいでッて」
「宮ちゃん、汚《きたな》い風をしているから行きませんて」
 この前柳沢と一緒に来た時来た瓢箪《ひょうたん》のような顔をした小《ち》さい女が主婦のいったことを伝えて二階に上っていった。
「何をいっている!……汚い風をしていたって構やしないじゃないか、お馴染《なじ》みの方だもの。……」おかみは愛想笑いをしながら「もう我儘《わがまま》な女《ひと》ですからさぞあなた方にも遠慮がありませんでしょう。この間から歯が痛いとか頬《ほお》が脹《は》れたとかいって、それは大騒ぎをしているんですよ。……もう一遍いって雪岡さんがいらしったんですから、そのままでいいから降りておいでッて」
 お宮は階段《はしごだん》を二つ三つ降りて来て階下《した》を覗《のぞ》きながら、「あははは!」と笑った。
 二、三日|逢《あ》
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