たのでは。誰れか一人楽しみがなければつまりません」
と、いってくれている主婦は、私が女を連れ込んで来たのを快く迎えて枕の心配などしてくれた。
翌朝《あくるあさ》日覚めると明け放った※[#「木+靈」、第3水準1−86−29、350−下−6]子窓《れんじまど》から春といってもないほどな暖《あった》かい朝日が座敷の隅《すみ》まで射《さ》し込んで、牛込の高台が朝靄《あさもや》の中に一眸《ひとめ》に見渡された。
「好い景色ねえ。一遍自家の主婦さんと一緒に遊びに来るわ!」
お宮は窓に凭《もた》れて余念もなく遠くの森や屋根を眺《なが》めていた。
私はまるで新婚の朝のような麗《うら》らかな心持に浸って、にわかに世の中の何もかもが面白いものに思いなされた。
いつも階下《した》におりて食べる御飯を、今日は主婦さんが小《ち》さい餉台をもって上って、それに二人の膳立《ぜんだ》てをしてくれた。
私の大好きな小蕪《こかぶ》の実の味噌汁《みそしる》は、先《せん》のうち自家でお前がこしらえたほど味は良くなかったけれど久しぶりに女気がそこらに立ち迷うていて、二人差向いでお宮にたき立ての暖かい御飯の給侍《きゅ
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