眺めわたしたりして、いくらか伸び伸びとした気持ちになっていた。
まだ一緒にいる時分よく先《せん》のうち、お前が前の亭主と別れて帰った時の話しをして、四年前一緒になる時にも仲に立った人間が、
「おすまさんもまんざら悪くもなければこそこうして四年もいたのだから、あの人の顔を立てて半歳《はんとし》の間はどんな好い縁談《はなし》があっても嫁かないようにして下さい」
と、いって別れて戻ったと言ったじゃないか、私とは満《まる》七年近くも一緒にいて、それで私がまだ現在お前の親の家にいる間にそんなことをしたかと思うと、どれほど私の方でああ済まぬことをした、苦労をさした、気の毒である、可愛《かわい》そうだと思っていても、そう思っていればいるほどお前ら一族の者の不人情な仕打ちを胸に据えかねて、そのままあのとおりの手紙を寝床の中で書いたのだ。
柳町の新吉の奴、どうしてくれよう。まだ暑い時分であった。私が、ともかくもお前と別れることになって、当分永い間東京に帰らぬつもりで函根《はこね》にいって、二十日《はつか》ばかりいて間もなくまた舞い戻って来た時、
新橋に着くとやッと青の電車の間に合って、須田町ま
前へ
次へ
全100ページ中40ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
近松 秋江 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング