にしようと思っている清月に柳沢と一緒にゆくのは厭であった。
「じゃやっぱり彼家《あすこ》にしよう。……僕もあんまり行かない待合《うち》だがお宮を初めて呼んだ待合だから」
 そういってお宮のいる置屋《うち》からつい近所の待合《まちあい》に入った。
「……宮ちゃんすぐまいります」女中は報《し》らせて来た。
「いたナ!」私は微笑しながらいった。
「うむ」柳沢は、わざと苦い顔をした。
「今日はどんな顔をしているか。この間、昼、日の照っているところへ連れ出したら顔の蒼白《あおじろ》いところへ白粉《おしろい》の斑《まだら》に剥《は》げているのが眼について汚《きたな》くってたまらなかった」
 そういって柳沢は顔を顰めて、
「どう見ても高等|淫売《いんばい》としか見えない」
「芸者ともどこか違うしねえ」
「そりゃ芸者と違うさ。この間鳥安に連れていった時に鳥安の女中が黙って笑っていたが、これは淫売をつれて来たなと思ったのだろう。少し眼のこえた者には誰れが見てもすぐそれと分るもの」
 柳沢はしきりにお宮のことを気にして話をする。柳沢がそんなに女というものに興味を持って話をするのは、まだ一緒に学校にいってい
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