袢纒、頬被りといふ凝つた職人姿は藝者が多かつた。
中には男物の白絣で、いかつく見せるためか肩をまくつたのもゐたが、さうすると白いふくらんだ腕がよけいに露れてすぐ女だと知れる結果になるのもあつた。男が女の姿をしたのは、背がいやに高かつたり、いかにも女らしくやさしい踊りの所作をする腕が眞黒で筋張つてゐたりした。いづれにしても頬被りをしたのや、更にその上に深い千鳥型の編笠を被つてゐるのやで、踊り手の方から見物人は判つても、見物の側からは踊り手が皆目判らなかつた。見てゐる方では、眼の前を踊りながら過ぎる人を、あれは誰らしいと云ひ合ひ、判らないとぐるぐるついて※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]つて顏をのぞきにかゝるのだが、踊り手はなほのこと隱すやうにする、それが面白かつた。時々ぽかんと見てゐると、踊り手の中から急にこちらの鼻をつまみにかゝつたり、肩をついたりする。知つてる奴にちがひないが、判らない。
が、時間がたつうちにはそれも大半は見當がついてしまふ。何しろ、見物人は踊り手を見分けるのに夢中なのだから。凝つた奴は、一度さとられたとなると、急いで家にひきかへして又姿を變へて出て來るの
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