って、時々表の方の人影を意味ありげな笑いを含んだ眼で眺めている。
その家の前にちょっとした空地があり、半鐘を吊した梯子《はしご》が立っている。そこの石垣に身をもたせかけて、僕と「タイメイ」さんとしばらく待っていた。ひる間にくらべるとだいぶ風が出てきたので、寒いくらいだ。僕はそのときやっと気がついたのだが、部落の路には明りが少しもなかった。そして、真上には暈《かさ》のかかった大きな月が出ていた。人の顔がはっきり見えないながらも、とにかく部落の中を歩いてこられたのはそのためだった。ずいぶん待った。婿入りだということだが、その行列はちっとも来ない。いつのまにか僕たちのまわりには十三四歳の女の子たちが集まっていた。前へはけっして来ない。時々、まるで魚の列から一二匹気まぐれなやつが横へ流れをつっ切ってゆくように、一人二人がわざと僕たちの前をすっと通り抜けてはかえってくる。そしてもとの群へかえるとくつくつ忍び笑いをするのだ。中には月をいっぱいうけて顔をさっとつきだして逃げるのがある。その群は向うの暗がりへ行ったり、また僕たちの背後にそっと近よったりした。
「タイメイ」さんは、まだ始まらないから少
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