そうも思った。
ちょうど、檜垣の母方の祖父が亡くなったので、お悔《くや》みをのべがてら遊びに神着村へ行った。そのとき、檜垣は何を思ったのか、彼の身の上をしみじみと語り、
「僕はこれで、時々やりきれなくなることがありますよ。島の者だからね、島で死ぬつもりだが、島でなれる限りの幸福なことを考えてみてもやっぱりだめですな」
と、言った。
金も乏しくなったし、ぼつぼつ帰ろうという気も起きたので、一度は上ってみたいと思っていた雄山へ行くことにした。案内人をつけないと路がわからないだろうと言われたが、かまわずに一人で出かけた。七百メートルくらいの山だから平気だと思った。いつか民さんたちと放牧に行ったことのある、そこらからまた急な坂路になって、しばらくすると広い平坦なところへ出た。林と草地が入れ代り現われる。だいたいの路は聞いたのだが、何分広い原っぱみたいなので路がわからなくなった。
ふと気づくと、中腹にあたる林の中からうすい煙が立っていて、よく見ていると、なんだかそこいらの林を切っているらしく、林の上っ葉が一所ずつ揺れて、そこだけ空所ができていくようだ。目あてにして行くと、四五人の男が炭材を伐採《ばっさい》していた。訊くと路はすぐわかった。
今度はうんと急な路だ。そんなところも牛が上るらしく、ところどころに牛の踏みこんだ跡が段になってついている。水こそないが、石ころだらけの沢みたいな路だ。また、広っぱに出る。そこいらはすっかり灌木の原で、間々に柔かい芝草が生えている。そこをぐるっと廻るように行くと、もう小さな内輪山の下だ。いつの間にか外輪の中へ入ったのだ。熔岩の細かく砕けた原をまっすぐに、ちょうど上ったところとは反対側へ行って山の向う側の部落を見ようと思った。外輪の縁が凹んだところまで行ってみると、そこは眼のくらむような崖だった。ずっと真下までどれくらいか見当もつかない。岩の間に小さな路が匐《は》って下りているのが上から見える。崖の真下の岩場から下方はしだいに拡がった草地で、それはだんだんと林になり森になりして、一帯の山裾がごく小さいながらに、海ぎわまで手にとるように見える。海に近い方にはぽつりぽつり人家が見えた。
海は真青で、海岸が白く泡立っている。眺めているうちにだんだん前へ吸いこまれそうになる。この辺から思いきって飛んだらどの辺に落ちるだろうか。そう見当をつけ
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