って来て、いきなり頭の上から捲きこむやつがある。こいつでかいなと思うと、迫って来る浪のまん中をめがけてまっすぐ棒のように潜って突き抜けるのだ。でないと、捲きこまれて、水の中で揉まれてしまうのである。
まあこういう時は岩場は危くて近よれないのだ。しかし、浪の静かな時は岩のところにばかり出かけた。栄螺、あわびを採るのである。あいつの巣を見つけることさえできれば、こんなに楽にとれるものはない。私はいつも友人の二三人で出かけたのだが、めいめいに水中眼鏡をかけて、岩から岩へつたわって行くのであった。岩の側面や下側、海底などの割れ目を丹念にのぞいて行くのである。いるときには、その長細い割れ目の中にぞろっと列をつくってぎっしり並んでいる。あまり沢山だと大きいのだけを採るのだが、それでも一度では手にいくつも持ち切れないし、岩の上へほうり上げては又逆さにもぐりこむのが忙しくて大変だ。ぽかっと浮び上っては口を大きく開ける、又もぐりこむ。時々、友人といっしょに浮び上って、大急ぎで息を吸い込む変な顔を見合うことがあるが、それを笑っていられないほど忙しい。
あの採りたての栄螺を岩の上に叩きつけて割り、むき身
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