、その晩とうとう眠れなかった。しかし、朝になるとかっと暑くなって来て、何だか気が立っていたせいだろう不眠も何ともなく感じた。その日夕方まで、私は海で時間を過した。
防波堤で小さな湾がつくられ、その外へ泳いで出ると、浪はかなり高く持上って顔にぶつかって来る。岩もたくさんあった。浪のつよい時に岩の間を泳ぐのは多少危い。岩に身体を打ちつけられるのだ。しかし、私は幼い時から馴染んで来た田舎の海を思い出して気持がよかった。ふわりと高く持上げられたり、低く落しこまれたりしながら、何もない沖の方を向いて泳いで行くのはいいものだ。それからあの軽く柔い水の肌ざわり、底が白い砂地だと浪のゆらめきにつれていくつもの細い光りの皺が下できらめく。
日本海では土用波はない。しかし、沖が荒れているときにはかなり浪が高くなる。こういうときはあまり気持はよくないが、それでも沖へ向って泳いで出たものだ。高くなったり、底の方に低まったり、その度に陸が一望の中に眺められたかと思うと、急に頭の上の空だけになる。沖からかなりな奴が頭を持ち上げて、脅かすように段々と近まって来る。見当で、乗り切れるかどうかを見る。中にはゆるくや
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