踏んぞりかへつても喚いても、たゞすつぽりと包んでくれ、身軽るにさせてくれる空気だけだつた。

 徳次は水際につないである船の所に行き着く前にもう褌《ふんどし》とシャツ一枚の半裸体になつてゐた。衣類をくるくると円めて、帯でひつ括《くゝ》るなり、ぽんと手前にはふり出して、いきなりざぶざぶと河の中に入つて行つた。船体を蔽つてあつた帆布をめくりとる、敷板を上げる、ロープを片づける、その後は船体の水洗ひだ。
 河原町の評判では、徳次は怠け者といふことになつてゐた。恐らくそれは、河から上つた徳次が水をはなれた河童のやうになすところを知らぬげなぽかんとした様子に起因してゐたのだらう。彼は怠け者ではない。彼にはきつと、自分の気に向いた仕事にだけ熱中する子供染みた無邪気さが他の人よりはよけいに残つてゐたのだ。その証拠には、河に下り立つてからの彼の動作には、別人のやうにきびきびした手順のよさと云つた風なものがあり、間もなくわき目もふらずに働きはじめたのを見ても判る。冬近い時候なのに、額には汗が流れてゐた。彼は時間のたつのを忘れてゐた。
 船体を洗ひ終つて、これから雑具にかゝらうとしたときだつた。彼はふと対
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