記事が出て以来、今泉は何度河原町でこの「信水閣下」のことを話したものだらう。彼は夢中になつてゐた。その情熱のおかげで、今泉は町中の人が彼と同じ位に「信水閣下」を知つてゐるやうにさへ思ひこんでゐたのである。だから、新聞で凱旋の記事を見たとき、今泉はもうどんなにしてもそのことを知るかぎりの人に、誰でもいゝ、報《しら》せたくてたまらなかつたのだ。
 ところが、徳次はぽかんとした表情を浮かべたきりだつた。
「ホリウチ?」
「うん。青島陥落の、ほら、旅団長閣下だよ」
「あゝ、さうか。ふうん」
 やつと、徳次は感心した。青島陥落はついこなひだのことで、その時は徳次も提灯《ちやうちん》行列に出たのである。
 今泉は調子づいた。
「神尾司令官閣下と同列なんだよ。宇品から東京駅着。それから直ちに参内上奏されたんだよ。どうも、すばらしいね。目に見えるやうだね」
 今泉の読んだのは予定記事だつた。だが、早のみこみと、簡単な熱中家が造作もなくつくり上げる本当らしさ、それによつてなほ熱中するといふあの癖とによつて、彼はそれをすでにあつたことのやうに話しこんだ。若し、他にまだ話したくてたまらないことがなかつたら、
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