度通りかゝつて、「あんたは高間さんぢやないですか」と呼びかけた。
「えらい評判ですなあ。けつこうですよ。ぜひ話しに来て下さい。わたしはこんなにいつもひまですからな」
 さう云ひすてて、大きな音を立てて下駄をひきずりながら立去つたのだ。
「さあ。どうぞ、どうぞ」
 彼は背だけでなく、腕と云ひ胴体と云ひ、又その両脚と云ひどの部分もすべていやに長かつた。その手を差しのべて、房一を座蒲団の上に招じると、自分も対《むか》ひ合つて座を占めた。すると、又もや長い両膝が蒲団の上からはみ出して、房一の方に向いてにゆつと二つ並んだ。
「よく来てくれましたな。けふはゆつくりしてもかまはんのでせう。あんたは碁を打ちますか。――さうですか、御存知ないですか。それはちよつと。まア、しかし、こんなものは覚えん方がいゝかもしれませんなあ」
 さう云ひながら一寸横目で自分の膝のわきに据ゑたずつしりと厚味のある榧《かや》の碁盤を眺めた。
「今日はほんの御挨拶に上つたので、いづれ又ゆつくり――」
 この分では永くなりさうだと思つて、房一が腰を浮かし気味にすると、
「まあ、いゝでせう。せつかくぢやありませんか」――
「あ、さ
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