書でざつと町内に出しときましたがね」
「ふうん」
道平は納得したやうにうなづいたが、又ゆつくり身体を坐りなほすのと一緒に、
「それは、まあ、都会風でいけばそれでいゝわけだが」
房一は目を上げて注意深く道平を見た。
「あれですかね、やつぱり自分で歩かなくちやいけませんかね」
「いかんと云ふわけもあるまいさ」
道平はまるで大きな輪がゆつくり廻つてゐて、その一点の結び目が眼の前に現はれたときにやつと口を開くかのやうであつた。
「まあ、――上の町の大石さんとこ位は行つとくのもよからうが」
「なるほどね」
又とぎれた。
「なにしろこんな狭い田舎ぢやから、何事もねつう[#「ねつう」に傍点]やる。それをやらんと後がうるさい。自然評判を落すといふことも起るかな」
道平はそのまゝ夕食を招《よ》ばれて、ゆつくり腰を落ちつけてゐたが、夜ふけ近い頃になつて、ひよつこり
「さあて、帰るかな」
と云つた。
義母は明日も片づけ仕事が残つてゐるので泊つて行くことになつた。
「もう遅いんですよ、おぢいさん。泊つてつたらどうです」
しきりにすゝめられたが、道平は縁側に出て、いつのまにか下してゐた着物の裾
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