構だ」
胡坐をかいた道平は今膝小僧までまる出しにしてゐた。それも日に焦げてゐる。
「おい、お茶を入れてくれ」
と、房一が台所に声をかけた。
黒光りのする戸棚の蔭からびつくりしたやうな義母の円つこい眼がのぞくと、
「おや、いつのまにそこに来てなさつたかね。お茶ですか、上げますとも」
体が、と云ふより声が引つこむと、代りにそこに姿を現したのは盛子だつた。すると、うす暗い台所の板敷の上に眩しいやうな、うすい葉洩れ日のやうな気配《けはい》が立つた。
茶器を持つてこちらへ近づきながら、盛子自身も何となく眩しいやうな目つきをしてゐた。それは彼女に溢れてゐる若さだつた。その声で想像させたやうな細身ではなく、むしろ中肉だつたが、背が高いので一種の優しみが現れてゐた。
控へ目に坐つて、注いだ茶碗を盆の上に揃へると、
「はい」
と云ふ、思ひがけないほどはつきりした声で差し出した。そして、又淡泊なさつさとした足どりで台所の方へ去つた。
「開業日はいつかの」
道平はゆつくりと首を動かして訊いた。
「別に何日からでもないんです。今日からでも――」
「挨拶みたやうなことはもうしたかの」
「まあ、葉
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