つてゐた。
「それで、近く片づきさうなんですか」
「いや」と、喜作は相変らずきつぱりと、煩《うる》さがりもせず答へた。
「まだなかなかでせう。永いこつてすよ」
房一は思はず笑ひ出した。
喜作と別れてから、房一は歩きにくい足もとの円石に目を落して何となく考へこんだ風に歩いて行つた。
「永いこつてすよ」――そのきつぱりとし、そのためにかへつて本当の永さを、あのつきることのない、何かしらにみちた前方の日々を現してゐるその云ひ方が、ひどく房一の頭に残つてゐた。
それはさうだ、永いことにちがひない、と房一はゆつくりと歩きつゞけた。多分、彼は彼で、自分のこれからの生涯を、その計りがたく、茫漠とした行手を見てゐたのだらう。
[#地から1字上げ](昭和十六年四月)
底本:「筑摩現代文学大系 60 田畑修一郎 木山捷平 小沼丹集」
1978(昭和53)年4月15日初版第1刷発行
1980(昭和55)年7月30日初版第2刷発行
初出:「医師高間房一氏」砂子屋書房
1941(昭和16)年4月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくって
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