でしたな」
 房一が云ふと、喜作は突然びつくりするほど大きな口を開けて笑つた。
「いつこちらへお帰りでしたか」
「いや、あの晩の、ほんの三二日前です」
「ちつとも知りませんでしたよ」
「なに、ろくでもない用事で帰つたもんですから、どこへも失礼してゐたんです」
 あのことだな、と房一は思つた。訊いてどうかな、とは感じたが、相手があまりさつぱりしてゐるので、
「訴訟があるさうで、面倒なことですな」
と、云つた。
「さうです。相談があるからと云ふんで帰つて来たんですが、僕なんか何も問題はありませんよ。返すものがあれば、いつでも返します。何もないんですよ。家と、田地が少し。それも抵当に入つてゐますよ。僕がしたわけぢやない。兄貴が選挙の費用だの何だので金が要つたのでせう」
「さうですか」
 答へながら、他人ごとのやうにずばずば何でも話してしまふ喜作の飾り気のなさに、驚いてゐた。
 一息に話してしまふと、喜作は依然としてさつきのまゝの姿勢で、いかにも気持よささうに、あのごつごつした、年に似合はず毛のうすい頭をむき出しに日にさらし乍ら、遠く河下の方に開けた空と、その下に低く横はつてゐる丘陵地に目を放
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