二度傾斜で滑り、殆ど転んだかと見えたが、間もなく身体を起した時にはもうその場所に立ちはだかつてゐた。
「何をするかつ」
 すさまじい怒気のやうなものが、房一のあらゆる部分に燃え立ち、彼のいかついむくれ上つた肩は二倍も大きくなつて見えた。それに圧倒されたものか、物音は止んで、房一が何かしきりと云つてゐるのが聞えたが、間もなく二三人がごそごそ土手を降りて行つた。
 それで一たんは静まつたやうではあつたが、その中にはかへつて不気味な気配《けはい》が潜《ひそ》まつてゐた。黒くかたまつた人達はその場を去らうとはしなかつた。房一が向ふへ行つてゐる間に、構内の人影はすつかりゐなくなつてしまひ、黒い建物の奥にちらついてゐた官舎の明りも見えなくなり、焚火も消されたが、それはしばらくするとちよろちよろと又燃え立ち、人気のなくなつた構内の庭を少しばかり明くしてゐた。が、下方では殺気立つた空気が暗らがりの中に暗く、圧するやうに籠つてゐた。あちらこちらに人はかたまり、がやがや云ひ、或る塊りは黙りこみ、その間を何人かが動き廻つてゐた。ふいに、投石したのかそれとも何か中の人が躓いたのか、建物の方でチヤリンといふ硝子
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