神官達は、笏を前に構へ、気を張つて真正面を向いたまゝ繰り出して来た。俳優で云へば、まさに花道の出にさしかかつて来たところである。
だが、彼等が危ぶみ、恐れ、半ば期待してゐたやうに、歩いて行く両側はこんなに町に人がゐたかと思ふほど黒山のやうな人だかりであつた。見覚えのある顔が、真紅になつて笑ひこけ、指さしをし、何か囁き合ひ、子供達は日頃馴染めなかつた大人達がこんな風変りな恰好で歩くのを見てすつかり有頂天になり、わいわい云ひながら行列につきまとつてゐた。しかしながら、神官達の方にも案外な度胸ができてゐた。お揃ひの恰好といふ点だけでなくとも、かういふ風に観物にされるのは一人ではなかつた、誰しも忍び笑ひから免れることはできない。その意識が今や共通した一箇の仮面のごときものを与へ、まさにそれが行列を形造つてゐたのである。どういふものか、誰もが皆生真面目な顔をしてゐた。小谷には紙ながら衣冠束帯がよく似合つてゐた。が、誰よりも一番似つかはしかつたのはあの老来なほ矍鑠《くわくしやく》とした端正な鍵屋の隠居、神原直造であつた。恐らく疲労からであらう、彼はさつきからにこりともしてゐなかつたが、それがなほ
前へ
次へ
全281ページ中246ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田畑 修一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング