落ちつきのない女らしい黒瞳《くろめ》がちな眼を道平に向けた。
 すると、道平の半ばひきつゝた表情の中には、又あの悦ばしさが、かうして歩いて来たことを人に見られるといふ満足が、ゆつくりと、何だか紙のずれるやうな工合に上つて行つた。
「もう、だいぶようなつたですわ」
 と、彼は恐しく手まどつて答へた。
「お髯がなくなりましたわ」
 と、盛子が傍から又さつきのをかしさを思ひ出したらしく、そつと注意した。
「はあ! さう――ですね」
 小谷は髯のことなんかはよく覚えてゐなかつたので、曖昧に、気のない返事をした。道平は、さつきは盛子に紅くなるほど笑はれて多少気を悪くしたことではあるが、こんな風に自分が元通りに恢復し、房一の家の縁側に腰を下し、やつて来た人から何やかと話しかけられることに一種のまごつきと期待を現しかけた。だが、小谷には何の反応もなく、その目は又紙衣裳の方へ帰つた。
「もう着てみましたか」
「いゝや、まだ」
 とてもそんなことは! といふ風に房一は答へた。
「一つ着て見せたらどうです? 高間さんにはきつと似合ひますよ」
「まさか!」
 だが、さう云つてすゝめる当の小谷には、その細面の
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