彼が感動したのは他でもない、決してつかまらない年月といふもののふしぎさ、その尨大な、とりとめもない曖昧さ、しかもなほ決して空虚ではない、いや空虚とその反対のものが一杯にまざり合ひ、犇《ひし》めき、微妙につながり合ひ、その或る時は軽快に、或る時は重々しく、何かはつきりしてゐるかと思へば混乱し、――さういふ得体のしれない経過のせゐだつたのである。
たしかに、一年余りといふ年月は経過した。それは暦の上でもはつきり現れてゐるし、房一の身辺でも紛《まが》ふことなく通過した。たしかにいろんなことが、予期したことも予期しないことも起つた。それにもかゝはらず、そこには何か了解しがたいものがあり、一口に一年といつてしまふにはあまりにはみ出たものがうようよして感じられるのであつた。これにくらべれば、彼が開業のはじめに空想したさまざまのことは、あの医師高間房一としてこの町にしつかりと根を生やすといふことは、どんなに小さくどんなに単純なものだつたらう。いや、彼の空想は着々として実現してゐた。何故なら、どこにも医師高間房一としての失敗は認められなかつたから。それでもなほ、彼の前もつて考へたことは、起つたこと
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