れぬ線の粗《あ》らさとどぎつさこそあつたが、想像したよりもはるかに老人だつた。
「さういふあんたはどなたで?」
 と、やがて相手は訊き返した。声音は落ちついて低かつたが、その裏には場合によつてはまるで反対の強さに瞬時に変りかねないことを感じさせる力がこもつてゐた。
 房一はその時、これは思つたより以上に面倒だな、と感じた。この場だけを円めればいゝといふわけにはゆくまい、云ひがかりをつけられるかもしれぬ。それから、徳次をこの場から去らせても後で鬼倉の配下の者に狙はれるかもしれぬ、といふことを突嗟《とつさ》に考へた。彼は腹をきめた。そして、相手の顔に目をつけながらゆつくりと答へた。
「いや、私はすぐこの近くで医者をしとる、高間といふ者ですが」
「あゝ、お医者?」
 と、鬼倉は意外に思つたらしい。小首をかしげてゐたが、
「高間さんと云ふと、――ふむ、そんなら、わしとこの者《もん》が度々御厄介になつとる先生ですかな」
「さうです、小倉組の方ですな」
「や、さうでしたか。それは――」と、鬼倉は目に見えて和《やは》らいだ。
 ――「それでは、わしの方からお礼を云はなきあならんのです。どうぞ、よろし
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