が、その挑《いど》むやうな強い眼の色と全身に滲み出た一種圧迫的な怒気とはその表面の叮重さを明かに裏切つてゐた。効果は覿面《てきめん》だつた。
「はア」
 と、云つたまゝ直造は首を落して聞き入つてゐた。房一が云ひかけた時、直造の老いてはゐるが練《ね》れた頭は即座にその意味を悟つた。そして、自分の手落ちだつたことを認めてゐた。が、この不意打は少からぬ打撃でもあつた。彼はこれまでの生涯に自分が主人役をつとめて来たこの家の中で、未だかつてこんな思ひがけない反撃を喰つたことはなかつた。いや、どこの家の集りでも見たことはない。すべては古いしきたり通りに、一定の型通りに行はれ、それが乱されたことはなかつた。それは彼の身体にすつかり滲みこんでゐるあの雅致のあるゆつくりとした段取りのやうに、永い間に築かれ自然と支へ合ひ、ゆるぎのない目立たぬ日常の確信といつた風なものになつてゐた、――それがこの瞬間に思ひがけない形で動揺するのを覚えた。
「さやうでござりますか」
 直造は、然し、突嗟《とつさ》のうちに考へをまとめることができなかつた。彼はあの慇懃な荘重さをとりもどしてゐた。が、何となく悄《しを》れた所のあ
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