てゐなくてもこゝの家とは親類ぢやありませんか」
「それが、その、来ないわけがあるのさ」
「へえ、どういふわけでせう」
 一瞬、まはりの者は皆黙つてゐた。わけを知らないのは今泉だけらしかつた。その意識のために、今泉はひどく大切な物をとり落したときの呆然とした眼で庄谷を眺めてゐた。もともとどこか空虚な感じのする彼の顔は、眼がとび出して底まで空つぽになつたやうに見えた。
「あれは本当ですかね、相沢さんが訴訟を起したと云ふのは?」
 声をひそめて、富田が訊いた。
「本当も本当でないもありやしませんよ。財産譲渡無効、その返還を請求したのだよ」
「相手は誰です? こゝの御隠居ですかい」
「いや、それあ貰つたのが分家だから、相手はやつぱり分家の喜作さんさね」
「だつて、喜作さんはこの土地にはゐないでせう」
「居なくたつて訴訟はいくらでもできらあね」
 その時、彼等は近くに坐つてゐる房一に気づいた。話に出てゐる鍵屋の分家とは、まさに房一の借りてゐる家のことだつたし、その所有者は神原喜作にちがひなかつたから。
「ねえ、高間さん。まあ、こつちへお寄んなさい」
 富田は房一に声をかけて彼のために席を明けなが
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