て従順に育つた。娘の頃に、一体どんな形の結婚が自分を待つてゐるのか考へないではなかつたが、それはいつも漠然としたとりとめもないもので、又それ以上に空想するほどの材料は何一つなかつたと云つてもよい。したがつて彼女の頭に浮ぶ結婚生活はをかしい位に家事向きのことで一杯になつてゐた。お裁縫だの、洗ひ張りだの、糠味噌の塩加減、野菜の煮方、その他|細《こ》ま細《ご》ましたことが彼女の空想を刺戟した。
そして、事実その通りだつた。盛子にはさういふ才能があつたのだ。房一と結婚して今の家に世帯を持つや否や、彼女の綺麗好きと器用さはすぐさま形を現した。入つた許りの時には黴《かび》臭く古ぼけてゐたこのだゝつ広い家が、ひと月かふた月たつうちに廊下も柱も戸棚もすべて拭きこまれるべき所はまるで見ちがへるほどぴかぴかして来た。はじめは家具が少いためにがらんとして見えた部屋々々もどことなくまとまりを感じさせるやうになつた。今でも、盛子は朝から晩まで何かしら細ま細ました用事を見つけ出しては働いてゐた。まるで彼女の行つた所、指で触れた所から片づけたり繕《つくろ》つたりする仕事がぴよこりぴよこり起き上つて来るやうに見えた
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