に向けて一散に走つて行く徳次の姿が見られた。両岸の間に太い針金が張りわたらせてあつて、船に乗つた人は綱を手繰りながら渡る仕掛になつてゐる。ちやうど、船はこちら側にあつた。徳次が向ふ岸まで船を手繰《たぐ》り寄せて行つた頃には、房一はやつとこさ河原に降り立つて、近づく徳次に向つて親しみ深い微笑を浮かべてゐた。その微笑は彼特有の円々としたどつか厚みのあるものだつた。房一の傍には白と茶との斑犬がついてゐた。
徳次も笑顔になつてゐた。だが、それは甚だ不器用なもので、絶えず紅らんだり力んだりしながら、眩しげに房一を見たかと思ふと、又当惑したやうな顔になるのであつた。
「やあ」
と、房一が声をかけた。
徳次は答へることができないで、又あの不器用な笑顔をつくつた。それから、船がごとんと岸に突きあたるはずみに、房一の前にとび降りると、突拍子な調子で
「どうしなさつた」
と、云つた。彼は殆ど房一の前に立ちはだかつた恰好だつたが、もぢもぢして、何だか自分を小さく感じてゐた。房一と目を合せると、すぐに外らせて、急にぐつたりとした様子になりながら、
「誰かと思つたら――」
口ごもつて、
「やつぱり、あ
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