鴻bパ》は一般に、石や鉄には事を欠かない代りに、木材には案外不自由している。おまけにべらぼうに手間賃が高いのだから、荷送り用の雑な木箱でさえ、これだけ取らなければ引き合わないのである。早い話が、ちょっと店へ買物に這入っても、売子が品物を奨《すす》めながら第一番にいう言葉は、ちゃん[#「ちゃん」に傍点]ときまってる。「これは handmade で御座いますから」と言うのだ。つまり、職人が手で造った物だから恐ろしく贅沢である。従って値段も高いという意味なのだ。この言い草はわれわれ日本人には不思議に響くけれど、機械製品に飽きている向こうの連中にはこの上なく有難いとみえて、ことに亜米利加《アメリカ》人なんか「|手作り《ハンド・メイド》」とさえ聞けば、どんなに桁《けた》はずれな高値をも即座に肯定して、随喜の涙とともに否応《いやおう》なしに買い取って行く。だから各地のお土産店でもすっかり心得ていて、人形一つ出しても「|手づくり《ハンド・メイド》」、ハッピイ・コウト一枚見せるにも「|手作り《ハンド・メイド》」、灰皿を買おうとしても「|手造り《ハンド・メイド》」――そこで、値が張っているのだと言う。こ
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