易して、出鱈目に歩き出そうとする。
 と、何か足に引っ掛るものがある。人間だ。人間の子だ。うっかりしてるうちに、この少年は無断で私の足に掴まって、靴磨きを開始していたのだ。危く踏まれそうになるのも構わず、膝で追っかけて来て、すっかり磨かせてくれと言う。そしてもう片手では、代金を要求しているのだ。
 こうなると、立ちどまることは許されない。停まるが早いか、くだんの靴磨き少年をはじめ、例の春画売り、絵葉書屋、煙草屋、両替屋、首飾屋、指輪屋、更紗《さらさ》屋、手相見、人相見のやからが翕然《きゅうぜん》と集合して来て、たちまち身動きが取れなくなる。街上をあるいていてさえ、どこからともなくいきなり駈けて来て、足下に平伏するやつがあると思うと、すでにそこで二つの真鍮のコップを叩いて「がら・がら・がら・ぶるるるる」を遣《や》り出している。蹴り飛ばして前進するわけにもゆかず、と言って、愚図々々立往生をしていて見給え。直ぐさま背後《うしろ》には物売りが人垣を作り、まえの商店からは腕力家の番頭が走り出て来て、有無を言わさず君を店内へ拉致するだろう。
 ポウト・サイドは、都会と呼ぶべくあまりに統一を欠いてい
前へ 次へ
全59ページ中41ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
谷 譲次 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング