マ客は、金のかわりに苦笑を与えて散らばりはじめる。この浮き足立った群衆を食い止めようとして、黒人の額には黒い汗の粒々が滲《にじ》み、その一つ一つをかっ[#「かっ」に傍点]と照りつけて、ポウト・サイドの太陽は麺麭屋《ベエカリー》の仕事場のように暑い――「がら・がら・がら・がら」船客中の子供達のあいだに、直ぐもう甲板の方々でこの真似が流行《はや》り出している。
船の周囲は、商隊の乗り捨てた小舟で埋立地のようだ。遠くからは、蝉《せみ》の死骸に蟻がたかったように見えるに相違ない。海上のそこここに同じ集団が散在している。青煙突《ブルウ・ファネル》は英吉利《イギリス》の貨物船・黄地にQ字の検疫旗を揚げたメサジェリイのふらんす船・デラクサ号は伊太利《イタリー》船だ。下に、船籍港ナポリという字が運河の水に白く揺れている。
九時半上陸。
桟橋までさんばん[#「さんばん」に傍点]。
甲板給仕《デッキ・スチュワアド》が船腹梯子《ギャング・プランタ》に立って艀舟《はしけ》を呼ぶ。声に応じて、幾つもの赤い土耳古《トルコ》帽が櫓《ろ》を操って殺倒する。上陸する女客たちは、大げさに怖がって、水夫の手で小舟へ
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