リ製」でなく、「|手造り《ハンド・メイド》」でなく、「機械による多量生産」であるために、たった十三志なのだ。これほど私のこころを打った東西文化の方向の相異はない。じつによく両者の食いちがいをあらわしていると思う。これを言いたいためにのみ、長ながとこのエピソウドを書いて来たのだが、煎《せん》じ詰めると、いたずらに先方の真似をしないで、わが特長を伸ばして往く以外に、私たちの進展の途はないということになる。
このトランクは非常に重宝した。木箱や弾薬箱は、送って来て日本へ着いてしまうと、毀《こわ》してお風呂の薪《まき》にするくらいの用途しかないが、トランクなら、物を入れて保存して置くのに子々孫々まで役に立つ。
これらのトランクは、当分私達の家に異彩を放つことだろう。書物とは限らない。英吉利《イギリス》から何か送るには、迷わず繊維性《ファイバア》のトランクに入れることだ。
2
さて、これでいよいよ帰国の途に就けるというんで、喜び勇んでいると、またしてもここに一大事件が勃発した。
旅券《パスポウト》を紛失したのである。
そもそもこの旅券たるや、海外における唯一の身分証明であ
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