していい。氷上ホッケイとクレスタ競争がモリッツの呼び物なんだが、それだってこれを見に集まるものも全体の三分の一で、他はことごとく、ただ何てことなしに、「今年の冬はサン・モリッツで|大きな日《ビッグ・デイス》を持ちました」と威張るために出かけてくるらしい。
 勿論、そこには、一年中の給料を貯金したので着物を買って来てうまく名流令嬢になり澄ましているマニキュア・ガアルや、故国の自宅へ帰ると暗い寒いアパアトメントの階段を頂上まで這いあがらなければならない、自選オックスフォウド訛《なま》りの青年紳士やが、それぞれ「大きな把捉《キャッチ》」を望んで、このSETに混じって活躍していることは言うまでもあるまい。聖《サン》モリッツは贋《にせ》と真物《ほんもの》の振酒器《ミックサア》なのだ。みんながお互《たがい》に make−belief し合って、相手の夢を尊重する約束を実行している催眠状想――それは、山と湖と毛糸のOUTFITによって完全に孤立させられている別天地なのだ。おまけに、雪はすべてを平等化する――何という、adventurer と adventuress に都合のいい背景であろう! そして
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