て「|驚かし《サプライズ》」たりする「|巨大な人々《ビッグ・ピイプル》」にとっては、こうであるほうがほんとなのだろう。僕らの知ってる一人の中年過ぎた亜米利加《アメリカ》の女は、善美を尽した一大汽船を移動邸宅にして、それに船長以下数百の乗組員と、身の廻りの召使い達と、男女の客と、食糧と日常品と管絃楽を満載してしじゅう世界中を浮かび歩いて遊んでると言った。彼女の船にはプウル・舞踏場・玉突き室・大夜会場・テニスコウト・幾つかの自動車庫・それに農園や牧場まであるという評判だった。冷凍室《アイス・チャンバア》なるものを信用しない彼女は、こうして船中に自給自足の設備をととのえているのだとのことだった。その船は、いまゼノアに停泊していて、彼女は、船長と無線電信技師と何人かの愛人と執事と女中の上陸団を統率して、モリッツ・ドルフの Suvretta Haus に可笑しいほど大袈裟《おおげさ》な弗《ドル》の陣営を構えていた。
まあ、こういうのは僕らに直接関係がすくないにしても、言わば、こんなのが冬の聖《サン》モリッツを作る中枢系統なんだから、純粋にスポウツそのもののためにやって来る人は比較的少数だと断定
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