スりが、一晩中森から出て来なかったとしても、それは誰のSINでもない、彼女の何気ない言動のことごとくが、ロジェル・エ・ギャレの眼で見ると、全く別の内容をもって響かざるを得なかったのだ。その晩、森のなかで、ロジェル・エ・ギャレは、ナタリイ・ケニンガムに正式に結婚を申込んだ。それは、彼女を驚かせるに充分だった。
『あら、なぜそうあなたは「大戦以前」なの? 結婚ですって?――いいじゃありませんか、そんなこと。』
そして、即座にそこで、ロジェル・エ・ギャレは、結婚と同じものを投げ与えられたことは、言うまでもあるまい。
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昨夜《ゆうべ》あなたは僕の腕のなかにあった。
僕の腕はまだその感触でしびれてる。
おお! それなのに夢だなんて!
Say, was it a dream ?
Was it a drea−−m ?!
[#ここで字下げ終わり]
――というロジェル・エ・ギャレの話なんですが、いかがです、お気に召しましたか。
ロジェル・エ・ギャレとナタリイは、その翌日朝早く、ケニンガム夫人を寝台へ残したまま、幸福と一しょに巴里《パリー》へ逃亡してしまった。しかし、これは、飽
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