ャ撃ノは、ほかの女が当った。が、それは彼一流の交渉の才能で、自分の思うとおりにFIXされ得べき性質のものだった。事実彼は、じぶんに当った女をNANの相手に押しつけ、そして、彼からナニイを横取ることによって、つまり、簡単には、女を交換して、見事にこの危難を征服した。彼女は、その火の玉のような断髪を彼の短衣《チョッキ》の胸へ預けて、片っぽうの眼で笑い、もう一つの眼で泣きながら、スケイトのJAZZを継続した。彼は、上から二つ目の釦《ぼたん》の横に残った白粉の残りを、長いこと消さずにおくことにきめた。僕がそれを注意したら、彼は幸福そうに微笑んだ。人並よりすこし長い彼の手が、女給の変装の下にすぐ細いサスペンダアをしている彼女の腰をかかえて、夜っぴて「黒い底」を廻った。しかし、「神よ王様を助け給え」が鳴り出す前に、ナタリイは逸早く逃げ出していた。それを追っかけてロジェル・エ・ギャレは森じゅうを逍遥した。母親のケニンガム夫人は勿論、本人のNANもこの希臘《ギリシャ》人の上に自分がそんな大きな動揺を投げていようとは知らなかった。彼女はただ、ベンジンのように火のつき易い性質に過ぎなかったのだ。だから、ふ
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