桙ノは、必ず誰か男の上を択《えら》んだ。それがロジェル・エ・ギャレだったことが二、三度つづいて、そして、可哀そうな彼をしてこの奔放な錯覚に陥らしめたのだった。彼女のスキイは、誰も手入れをするものがないので肉切台のように痕《あと》だらけで乾割《ほしわ》れがしていた。だから、彼女の加わった遠足スキイ隊は、必ず途中で何度も停滞して、彼女の所在を物色しなければならなかった。そういう場合には、彼女の赤い服装が雪のなかで大いに発見を早めた。すると彼女は、いつもスキイが脱げて立っていた。それを穿かせようとして、多くの男が即座にCRESTA・RUNを開始した。みんな一ばん先に彼女の助力へ走ろうと争ったが、これは、例外なくロジェル・エ・ギャレが勝つに決まっていた。それは決して、彼がスキイの名手だったからではなかった。つねに彼女のそばにいて、彼女のスキイに事件が起るや否、誰よりも早く奉仕出来る手近かな地位を占めているためだった。彼は、たとえ神様の命令でも、この特権を他人に譲ろうとはしなかった。早朝からNANの動静をうかがっていて、彼女が自室でスキイの支度をしている時は、すっかり用意が出来てホテルの玄関に待
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