備が調っていて、わざわざモリッツへ出なくても、そこだけで独自の、金色の酒のような暖かい陽の照る、愉快な小地点《スポット》だった。
 サン・モリッツは、大きく二つの部分に別れている。DORFとBADだ。つい先年までは、斜面の上のドルフでなければサン・モリッツでないように思われていて、下のバッドのホテルなんか多くの場合閉め切りだったものだそうだが、それが、この頃ではすっかり変って、各種のスポウツは勿論、名物の競馬などは、どうかするとバッドのほうが便利な程になっている。私達の選んだのは、ちょうどその真ん中へんの Hotel Beau Riverge だった。
 冬の聖《サン》モリッツは、両大陸の流行の大行列だ。
 倫敦《ロンドン》と巴里《パリー》と紐育《ニューヨーク》の精粋が、ウィンタア・スポウツに名を藉《か》りて一時ここに集中される。大小の名を持つ人々・名をもたない人々・新聞の写真によって公衆に顔を知られている紳士と淑女・知られていない紳士と淑女・女優・競馬騎士・人気作家・不人気BUT遺産相続で困らない作家・離婚常習犯人・商業貴族・生産のキャプテン達・彼らの家族中のJAZZ・BOYS・反逆
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